はじめまして。
資金調達コンサルタントの橘 宗一郎です。
メガバンクで12年間、法人融資担当として数百社の中小企業経営者様と向き合ってまいりました。
「3社間ファクタリングは、手続きが面倒で、取引先に迷惑をかけてしまうのでは…」。
多くの経営者様が、このような漠然とした不安から、この極めて有効な資金調達手段を敬遠されているのを、私は何度も目の当たりにしてきました。
しかし、元銀行員だからこそ断言できます。
その「面倒」という誤解が、あなたの会社のキャッシュフローを圧迫し、本来なら事業の成長のために投資できたはずの、年間数十万円、あるいは数百万円ものコストを静かに奪っているとしたら、どうでしょうか。
本記事の目的は、単に3社間ファクタリングの仕組みを解説することではありません。
この記事を読み終える頃には、あなたが抱える誤解は綺麗に払拭され、3社間ファクタリングを「取引先との信頼関係を深め、財務体質を強化する“攻め”の戦略」として、自信を持って活用できるようになる。
これが本記事のゴールです。
それでは、まいりましょう。
目次
そもそも3社間ファクタリングとは?- 2社間との構造的な違い
まず初めに、なぜ3社間ファクタリングが「面倒」というイメージを持たれがちなのか、その構造から紐解いていきましょう。
本質を理解すれば、何も恐れることはない、ということがお分かりいただけるはずです。
ファクタリングの基本構造:2つの契約形態
ファクタリングとは、貴社が保有する「売掛金(請求書)」をファクタリング会社に売却し、入金期日よりも早く資金化する金融サービスです。
これには、大きく分けて2つの契約形態が存在します。
一つは「2社間ファクタリング」。
これは、貴社(利用者)とファクタリング会社の2社間のみで契約が完結するシンプルな方法です。
もう一つが、本記事の主題である「3社間ファクタリング」。
こちらは、貴社(利用者)、ファクタリング会社、そして売掛金の支払元である「取引先」の3社が関与する契約形態となります。
なぜ「面倒」というイメージが定着したのか?
3社間ファクタリングに「面倒」というイメージがつきまとう理由は、主に3つのポイントに集約されるでしょう。
理由①:取引先への「通知」と「承諾」という手続きの存在
3社間ファクタリングでは、貴社がファクタリング会社へ売掛金を譲渡したことを、取引先に「通知」し、「承諾」を得るプロセスが必須となります。
この手続きこそが、「面倒」と感じられる最大の要因と言えるでしょう。
理由②:「資金繰りが苦しいと思われたら…」という心理的ハードル
次に、取引先にファクタリングの利用を知られることで、「あの会社は資金繰りに困っているのではないか」と勘繰られ、今後の取引に影響が出るのではないか、という心理的な不安です。
理由③:2社間と比べて資金化までに時間がかかるという側面
取引先の承諾を得る時間が必要なため、2社間ファクタリングが最短即日での資金化も可能なのに対し、3社間はどうしても少し時間がかかります。
これらの理由は、確かに一見するとデメリットに感じられます。
しかし、後の章で詳しく解説しますが、これらは正しい知識と伝え方さえあれば、むしろ大きなメリットに転換できる要素なのです。
比較表で一目瞭然!2社間と3社間の違い
ここで、両者の違いを客観的に比較してみましょう。
この表をご覧いただくだけで、なぜ私が3社間ファクタリングを強く推奨するのか、その理由が見えてくるはずです。
| 項目 | 3社間ファクタリング | 2社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 関与者 | 利用者・ファクタリング会社・取引先 | 利用者・ファクタリング会社 |
| 取引先への通知 | 必要 | 不要 |
| 手数料相場 | 1%~9%(安い) | 8%~20%(高い) |
| 資金化スピード | 平均10日~20日 | 最短即日~数日 |
| 審査通過率 | 高い | やや低い |
| 債権譲渡登記 | 原則不要 | 求められる場合がある |
注目すべきは、手数料相場の圧倒的な差です。
この差が、貴社の利益にどれほど大きなインパクトを与えるか、想像に難くないでしょう。
「取引先への通知・承諾」は本当にデメリットなのか?元銀行員の視点
さて、ここからが本題です。
多くの方が懸念する「取引先への通知・承諾」は、本当にネガティブな要素なのでしょうか。
私の銀行員時代の経験も踏まえ、この点を深掘りしていきます。
「資金繰り悪化」と思われるのは、伝え方次第
結論から申し上げますと、「伝え方」を間違えなければ、資金繰りの悪化を懸念されることはありません。
むしろ、計画的な財務戦略を実行している、先進的な企業であるという印象を与えることさえ可能です。
重要なのは、ファクタリングの利用目的をポジティブに変換して伝えることです。
例えば、「ネガティブな伝え方」と「ポジティブな伝え方」を比較してみましょう。
【NG例】「申し訳ありません、急な資金不足でして、ファクタリングを使わせていただけないでしょうか…」
【OK例】「実は、貴社との取引をさらに拡大するための設備投資を前倒しで計画しておりまして。そのための財務基盤強化の一環として、今回ファクタリングを利用したいと考えております。ご協力いただけないでしょうか。」
いかがでしょうか。
後者の伝え方であれば、取引先は貴社の前向きな姿勢を感じ取り、むしろ応援したいという気持ちになる可能性すらあります。
また、ファクタリングは「借金」ではありません。
資産(売掛金)を売却してキャッシュを得る行為であり、バランスシート(貸借対照表)上、負債が増えることはありません。
これは、銀行融資との決定的な違いであり、財務諸表をスリムに保つ健全な手法なのです。
銀行員は、こうしたキャッシュフロー経営を実践している企業を高く評価します。
取引関係は悪化しない。むしろ「強化」される可能性
「ファクタリングの承諾を依頼して、もし断られたら関係が悪化してしまう…」。
これもよく伺う不安ですが、私はむしろ逆だと考えています。
この依頼に真摯に応じてくれる取引先は、貴社にとって上辺だけではない、「真のパートナー」であると言えるでしょう。
このプロセスを通じて、普段は事務的になりがちな取引先とのコミュニケーションが深化し、より強固な信頼関係が生まれるケースを私は数多く見てきました。
特に、大手企業や上場企業は、自社がファクタリングを利用したり、取引先からの依頼を受けたりすることに慣れています。
彼らにとって、債権譲渡はごく当たり前の取引慣行の一つであり、皆さんが心配するほど特別なことではない、という現実も知っておくべきです。
面倒な手続きはファクタリング会社が主導
「取引先に通知や承諾をお願いするなんて、具体的に何をすればいいか分からず面倒だ」。
ご安心ください。
このプロセスにおいて、貴社がやるべきことは、実はそれほど多くありません。
最も重要なのは、ファクタリング会社から正式な依頼が行く前に、貴社から取引先のご担当者様へ事前に一本連絡を入れ、内諾を得ておくことです。
その後の、債権譲渡承諾書の作成や送付、手続きに関する専門的な説明といった「面倒な実務」は、すべてファクタリング会社が主導してくれます。
彼らはその道のプロですから、安心して任せることができます。
なぜ手数料は劇的に下がるのか?- 3社間ファクタリング最大のアドバンテージ
3社間ファクタリングを選択すべき最大の理由。
それは、何度も申し上げていますが「圧倒的な手数料の低さ」に尽きます。
なぜ、これほどまでに手数料に差が生まれるのか。
そのカラクリを理解することは、貴社の利益を守る上で非常に重要です。
ファクタリング会社のリスク構造を理解する
金融サービスの価格(手数料や金利)は、提供者側が負う「リスク」の大きさに比例して決まります。
2社間ファクタリングの場合、ファクタリング会社は一つの大きなリスクを抱えています。
それは、売掛金の入金が一旦、貴社の口座に入ってしまうことです。
これにより、入金された資金を別の支払いに「使い込んでしまう」リスクや、同じ売掛金を複数のファクタリング会社に売却する「二重譲渡」のリスクが発生します。
一方で、3社間ファクタリングではどうでしょうか。
取引先が債権譲渡を承諾しているため、売掛金の支払いは、貴社の口座を経由せず、取引先からファクタリング会社へ直接行われます。
これにより、ファクタリング会社は「使い込み」や「二重譲渡」といった未回収リスクを心配する必要がほぼなくなります。
このリスクの低さこそが、そのまま手数料の安さに直結しているのです。
これは極めて合理的で、明快な理屈と言えるでしょう。
年間コストシミュレーション:1,000万円の売掛金で比較
この手数料の差が、年間のキャッシュフローにどれほどの影響を与えるか、具体的にシミュレーションしてみましょう。
仮に、毎月1,000万円の売掛金をファクタリングで資金化する場合を考えます。
- 2社間ファクタリングを利用した場合(手数料率15%と仮定)
1,000万円 × 15% = 150万円(手数料) - 3社間ファクタリングを利用した場合(手数料率5%と仮定)
1,000万円 × 5% = 50万円(手数料)
その差は、わずか1回の取引で100万円。
もしこれを年間を通じて続ければ、その差は実に1,200万円にも達します。
この1,200万円があれば、新たな人材を採用できますか?
新しい設備を導入できますか?
Webマーケティングに投資して、さらなる売上拡大を目指せますか?
「面倒だから」という理由だけで2社間を選択することが、いかに大きな機会損失に繋がるか、ご理解いただけたかと思います。
審査が通りやすい、もう一つの大きなメリット
手数料の安さに加え、審査の通りやすさも3社間ファクタリングの大きな魅力です。
銀行融資の場合、審査の対象は当然、お金を借りる「貴社の信用力」です。
決算状況、担保の有無、保証人の存在などが厳しく問われます。
しかし、3社間ファクタリングで最も重視されるのは、貴社の信用力よりも「取引先の支払能力」です。
たとえ貴社が赤字決算であったり、税金を滞納していたり、あるいは創業間もない時期であったりしても、取引先が上場企業や公的機関など、信用力の高い相手であれば、審査を通過できる可能性は非常に高くなります。
これは、銀行融資を断られてしまった経営者様にとって、極めて有力な選択肢となり得ることを意味します。
実践ガイド:取引先に信頼される3社間ファクタリングの進め方
ここからは、実際に3社間ファクタリングを利用するための具体的な手順と、成功の鍵を握る「取引先への伝え方」について、例文を交えながら解説していきます。
利用開始までの5ステップ
一般的な3社間ファクタリングのプロセスは、以下の5つのステップで進みます。
- ファクタリング会社へ相談・申し込み
まずは複数のファクタリング会社に問い合わせ、手数料や条件を比較検討しましょう。 - 必要書類の提出と審査
決算書や売掛金を示す請求書、取引先との基本契約書などを提出し、審査を受けます。 - 【最重要】取引先への事前説明と内諾
ファクタリング会社との契約前に、必ず貴社から取引先にファクタリング利用の旨を伝え、内諾を得ます。このステップが最も重要です。 - ファクタリング会社から取引先へ「債権譲渡通知・承諾依頼」
内諾を得た後、ファクタリング会社が正式な書類(債権譲渡承諾書)を取引先に送付し、捺印を依頼します。 - 契約締結・入金
取引先の承諾書がファクタリング会社に返送され次第、最終的な契約を締結し、貴社の口座に資金が振り込まれます。
【例文あり】取引先への伝え方・交渉術
ステップ3の「事前説明」が、すべてを決めると言っても過言ではありません。
以下の3つのポイントを、誠意をもって丁寧に伝えることを心がけてください。
- 伝えるべき3つのポイント
- 資金調達の目的がポジティブであること(借金ではない)
先に解説した通り、「事業拡大のための先行投資」など、前向きな理由を伝えましょう。 - 取引先には金銭的負担や新たな事務手続きは発生しないこと
「振込先が変更になるだけで、御社にご負担をおかけすることは一切ございません」と明確に伝え、相手の不安を払拭します。 - 今後の取引をより盤石にするための施策であること
「財務基盤を強化することで、今後より安定的にサービスを提供できます」と伝え、双方にとってメリットがあることを示唆します。
- 資金調達の目的がポジティブであること(借金ではない)
【メールでの伝え方例文】
件名:【株式会社〇〇】お支払い先口座変更のお願いとご相談
株式会社△△ 経理部
〇〇様いつも大変お世話になっております。
株式会社〇〇の橘です。この度は、〇〇様には今後の弊社との取引をより円滑に進めさせていただきたく、ご相談がありご連絡いたしました。
実は、現在計画しております新規事業への投資に伴う財務基盤強化の一環として、この度、貴社への売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、早期資金化する運びとなりました。
つきましては、誠に恐縮ではございますが、次回以降のお振込先をファクタリング会社の口座へご変更いただく手続きにご協力いただけないでしょうか。
もちろん、本件に伴い〇〇様側で新たな金銭的ご負担や、複雑な事務手続きが発生することは一切ございません。
後日、ファクタリング会社の担当者より「債権譲渡承諾書」へのご捺印をお願いするご連絡がございますので、何卒ご協力賜りますようお願い申し上げます。
本件は、弊社が今後、貴社へより一層安定したサービスをご提供していくための前向きな施策でございます。
何卒ご理解いただけますと幸いです。ご不明な点がございましたら、いつでも私、橘までお問い合わせください。
今後とも、変わらぬお引き立てのほど、よろしくお願い申し上げます。
ファクタリング会社が交渉をサポートしてくれる場合も
どうしても自社の担当者だけでは説明に不安がある、という場合もあるでしょう。
その際は、ファクタリング会社に相談してみてください。
優良な会社であれば、取引先への説明の場に同行してくれたり、専門家として客観的な立場からファクタリングの仕組みを説明してくれたりするなど、交渉のサポートをしてくれる場合があります。
第三者が入ることで、かえってスムーズに話が進むことも少なくありません。
唯一の注意点と優良ファクタリング会社の選び方
最後に、3社間ファクタリングを安全かつ有効に活用するために知っておくべき、唯一の注意点と、信頼できるパートナー(ファクタリング会社)の選び方についてお伝えします。
唯一のデメリットは「時間」
ここまで解説してきた通り、3社間ファクタリングにまつわる懸念の多くは、正しい知識で解消できます。
しかし、唯一、物理的に避けられないデメリットがあります。
それは「時間」です。
取引先の承諾プロセスを挟むため、どうしても2社間ファクタリングのように「申し込み当日の入金」は困難です。
一般的には、相談から入金まで10日から20日程度を見ておくのが現実的でしょう。
ですから、資金が必要になるタイミングから逆算し、1〜2週間ほどの余裕をもって相談を開始することをおすすめします。
元銀行員が教える、優良ファクタリング会社の5つの条件
良いファクタリング会社と出会えるかどうかは、貴社の未来を左右する重要な問題です。
私がコンサルティングを行う際に必ずチェックする、5つの条件をお伝えします。
- 手数料体系が明確で、相場(1%~9%)から逸脱していないか
公式サイトに手数料の目安が明記されており、見積もり以外の不明瞭な費用を請求してこないことが大前提です。 - 契約形態(2社間/3社間)を柔軟に選べるか
両方のプランを用意している会社は、それだけ多くの企業のニーズに応えてきた実績がある証拠です。 - 償還請求権のない「ノンリコース契約」か
これは非常に重要です。ノンリコースとは、万が一取引先が倒産しても、貴社が返済義務を負わない契約のことです。この契約形態でないファクタリングは、実質的に「売掛金を担保にした融資」と変わらず、利用する価値は低いと考えます。 - 取引実績が豊富で、企業の公式サイトに情報がしっかり明記されているか
資本金、所在地、代表者名などがきちんと公開されており、豊富な取引実績があるかを確認しましょう。 - 担当者の対応が丁寧で、専門的な知識を持っているか
貴社の状況を親身にヒアリングし、メリットだけでなくリスクについても正直に説明してくれる担当者がいる会社を選んでください。
「債権譲渡登記」は不要なケースがほとんど
時折、「債権譲渡登記」を必須とするファクタリング会社がありますが、3社間ファクタリングにおいて、これは原則として不要です。
債権譲渡登記とは、その売掛金がファクタリング会社のものであることを法的に証明するための手続きです。
これは主に、取引先に通知をしない2社間ファクタリングで「二重譲渡」を防ぐために行われるものです。
3社間では、取引先から直接承諾を得ているため、登記の必要性は低いと言えます。
登記には費用もかかりますので、不要な登記を勧めてくる会社には注意が必要です。
まとめ:「守り」から「攻め」の財務戦略へ。3社間ファクタリングという賢い選択
最後に、本記事の要点を振り返りましょう。
- 「3社間ファクタリングは面倒」というイメージは、その構造とメリットを理解していないことからくる誤解である。
- 最大のメリットは、2社間と比較して手数料が劇的に安いこと。年間で数百万円単位のコスト削減に繋がる可能性がある。
- 懸念される「取引先への通知」は、伝え方次第で、むしろ信頼関係を深めるコミュニケーションの機会となり得る。
- 審査では自社の信用力以上に「取引先の支払能力」が重視されるため、銀行融資が難しい企業でも利用しやすい。
- 唯一のデメリットである「時間」を考慮し、余裕を持ったスケジュールで進めることが成功の鍵である。
銀行融資のように厳しい審査や煩雑な手続きに時間を費やすことも、2社間ファクタリングのように高い手数料を払い続けることも、もはや絶対的な選択肢ではありません。
取引先に協力を仰ぎ、低コストで迅速にキャッシュフローを改善する。
そして、そこで生み出された貴重な資金を、未来の事業拡大へと投資していく。
3社間ファクタリングとは、そのような「攻め」の財務戦略を実現するための、極めて賢い選択肢なのです。
情報に惑わされず、自社の状況と未来にとって何が最適かを見極めること。
それが、現代の経営者に求められる最も重要な資質だと、私は考えます。
この記事が、あなたの会社を次のステージへと導く、前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば、これに勝る喜びはありません。