「決算書は黒字なのに、会社が潰れる」——。
この言葉を聞いて、あなたはどう感じるでしょうか。
私は元メガバンクで12年間、数百社の融資審査を担当してきました。
その中で、何度も目の当たりにしてきたのが「黒字倒産」という残酷な現実です。
2024年、建設業の倒産件数は1,890件を超え、過去10年で最多を記録しました[1]。
そして驚くべきことに、倒産企業の約3割は直近決算が「黒字」だったのです。
なぜ利益が出ているのに、会社は潰れてしまうのか。
そして、崖っぷちに立たされた建設会社は、どうすれば生き残れるのか。
本記事では、「あと3日で黒字倒産」という絶体絶命の危機に直面した、ある建設会社のストーリーをお伝えします。
彼らがどのようにしてファクタリングという資金調達手段と出会い、V字回復を果たしたのか。
その全貌を、元銀行員の視点から詳しく解説してまいります。
目次
【ケーススタディ】A社が直面した「あと3日」の危機
順調だったはずの経営——受注増加の落とし穴
A社は、東京都内で内装工事を手がける創業15年の会社です。
社長の田中さん(仮名・52歳)は、大手ゼネコンの下請けから独立して会社を立ち上げました。
従業員12名、年商約3億円の中小企業として、着実に実績を積み重ねてきました。
2024年の春、A社に大きな転機が訪れます。
都内の大型商業施設リニューアル工事を連続受注し、売上高は過去最高を記録する見込みとなったのです。
「やっと、うちも軌道に乗ってきたな」
田中社長はそう思っていました。
しかし、その喜びは長く続きませんでした。
建設業には、他の業種にはない「構造的な落とし穴」があります。
それは、入金と支払いのタイミングが大きくズレるという点です。
A社の場合、工事代金が入金されるのは工事完了後2〜3か月後。
一方で、材料費や外注費、職人さんへの支払いは毎月発生します。
受注が増えれば増えるほど、先行投資が膨らんでいく。
売上が立っているのに、手元のお金はどんどん減っていく。
これが建設業の宿命なのです。
「あと3日で資金が尽きる」——社長が見た地獄
その年の9月末、田中社長は自社の資金繰り表を見て、血の気が引きました。
月末に支払わなければならない金額は約1,200万円。
内訳は、外注費600万円、材料費400万円、従業員の給与200万円です。
しかし、手元の現金残高は、わずか300万円しかありませんでした。
「あと900万円、どこから持ってくればいい……」
田中社長はすぐにメインバンクの支店長に電話しました。
長年の付き合いがある、信頼できる担当者です。
「田中さん、お気持ちは分かります。でも、融資の審査には最低でも2週間はかかります」
支店長の言葉に、田中社長は目の前が真っ暗になりました。
2週間後では、完全に手遅れです。
支払いが滞れば、外注先や材料メーカーとの信頼関係は崩壊します。
最悪の場合、工事がストップし、元請けからの信用も失ってしまう。
決算書を見れば、A社は間違いなく黒字企業です。
大型案件の受注も決まっており、将来の見通しも明るい。
それなのに、「たった900万円」のために、会社が潰れようとしている。
これが、黒字倒産のリアルな姿です。
なぜ建設業は「黒字倒産」に陥りやすいのか
A社のケースは、決して特殊な事例ではありません。
建設業には、黒字倒産を引き起こしやすい構造的な問題が3つあります。
原因①:入金サイトの異常な長さ
建設業界では、工事を受注してから代金が入金されるまで、平均3か月半かかるとされています。
大型案件になると、半年以上待たされるケースも珍しくありません。
一般的な小売業であれば、商品を売った瞬間に現金が入ります。
しかし建設業は、工事が完成し、検査が終わり、請求書を発行し、ようやく入金される。
その間、会社は一切のお金を受け取れないのです。
原因②:先行出費の多さ
建設工事には、開始前から多額の先行投資が必要です。
資材の仕入れ、重機のレンタル、職人さんの人件費、仮設事務所の設置費用——。
これらはすべて、売上が立つ前に支払わなければなりません。
しかも近年は、建築資材の価格が急騰しています。
2024年の建設業倒産のうち、約13%が「物価高」を直接の原因としていました[1]。
当初の見積もりが通用せず、赤字案件を抱え込んでしまう会社も少なくありません。
原因③:手形取引の慣習
建設業界では、いまだに手形取引が根強く残っています。
手形とは、「〇か月後に支払います」という約束手形のこと。
通常の売掛金よりも、さらに入金サイトが長くなる要因となっています。
政府は2026年までに手形取引の廃止を目指していますが、長年の商慣習はすぐには変わりません。
下請けの立場では、「手形でいいですか」と言われれば、断りにくいのが現実です。
これら3つの要因が重なり合い、建設業では「売上はあるのに現金がない」という状況が日常的に発生します。
そして、タイミングが悪ければ、A社のように「あと数日で資金ショート」という事態に陥ってしまうのです。
A社はどうやって「あと3日」を乗り越えたのか
ファクタリングという選択肢との出会い
銀行融資が間に合わないと分かった田中社長は、藁にもすがる思いで顧問税理士に相談しました。
「田中さん、ファクタリングという方法をご存知ですか?」
税理士は静かにそう切り出しました。
ファクタリングとは、売掛金をファクタリング会社に売却し、支払期日を待たずに現金化する資金調達手法です。
銀行融資と違い、「借入」ではなく「売却」なので、審査のスピードが圧倒的に速い。
最短で即日、遅くとも2〜3日で資金が手に入ります。
「売掛金を売る……? そんなことができるんですか?」
田中社長は半信半疑でした。
しかし、他に選択肢はありません。
税理士が紹介してくれたファクタリング会社に、その日のうちに連絡を入れました。
申込から入金まで——実際の流れ
A社が保有していた売掛金は、大手ゼネコン向けの工事代金800万円でした。
支払期日は2か月後。
しかし、今すぐ現金が必要な状況です。
ファクタリング会社への申込は、オンラインで完結しました。
必要書類は、決算書、請求書、取引先との契約書、そして身分証明書。
銀行融資に比べると、圧倒的に少ない書類で済みました。
申込の翌日、審査結果の連絡がありました。
「800万円の売掛金を、手数料10%でお買取りさせていただきます」
つまり、80万円の手数料を差し引いた720万円が、A社の口座に振り込まれるということです。
田中社長は一瞬、手数料の高さに躊躇しました。
銀行融資の金利に比べれば、確かに割高です。
しかし、ここで支払いが滞れば、会社の信用は地に落ちる。
失うものは、80万円どころの話ではありません。
「お願いします」
田中社長は、契約書にサインしました。
危機を脱した瞬間——720万円が会社を救った
契約完了の翌日、A社の口座に720万円が振り込まれました。
手元にあった300万円と合わせて、1,020万円。
月末の支払い1,200万円には、まだ180万円足りません。
しかし、その180万円は、月初に入ってくる別の入金で十分にカバーできる範囲でした。
一部の支払いを数日遅らせる交渉をすれば、乗り切れる目処が立ったのです。
9月30日、A社は無事にすべての支払いを完了しました。
外注先にも、材料メーカーにも、従業員にも——。
誰にも迷惑をかけることなく、会社の信用を守り抜くことができたのです。
田中社長は、その夜、一人でこう呟いたそうです。
「会社が、助かった……」
ファクタリングとは何か——銀行融資との違い
A社を救ったファクタリング。
ここで改めて、その仕組みを整理しておきましょう。
仕組みを図解で理解する
ファクタリングには、大きく分けて2つの形態があります。
2社間ファクタリングは、自社とファクタリング会社の2者間で契約する方式です。
売掛先(取引先)に知られることなく、売掛金を現金化できます。
手数料は8%〜18%が相場です。
3社間ファクタリングは、自社・ファクタリング会社・売掛先の3者間で契約する方式です。
売掛先の承諾が必要ですが、手数料は2%〜9%と低く抑えられます。
A社のケースでは、売掛先に知られたくないという理由から、2社間ファクタリングを選択しました。
手数料は10%でしたが、相場の範囲内であり、妥当な水準といえます。
銀行融資との5つの違い
銀行融資とファクタリングは、同じ「資金調達」でもまったく性質が異なります。
以下の表で、両者の違いを確認してみましょう。
| 比較項目 | 銀行融資 | ファクタリング |
|---|---|---|
| 審査対象 | 自社の財務状況・信用力 | 売掛先の信用力 |
| 資金化までの期間 | 2週間〜1か月 | 最短即日〜3日 |
| 担保・保証人 | 必要な場合が多い | 原則不要 |
| 返済義務 | あり(元金+利息) | なし(売却のため) |
| 信用情報への影響 | 借入として記録される | 記録されない |
特に注目すべきは、審査対象の違いです。
銀行融資では、自社の決算内容や経営状態が厳しくチェックされます。
赤字企業や、すでに借入が多い企業は、審査に通りにくくなります。
一方、ファクタリングで重視されるのは「売掛先の信用力」です。
売掛先が大手企業や公的機関であれば、自社が赤字であっても審査に通る可能性があります。
これは、建設業にとって非常に大きなメリットです。
大手ゼネコンや官公庁の下請けを多く手がける会社であれば、売掛先の信用力は申し分ありません。
建設業がファクタリングを選ぶべき5つの理由
ここまでの内容を踏まえ、建設業がファクタリングを資金調達の選択肢に加えるべき理由を整理します。
理由①:入金サイトの長さを解消できる
建設業最大の悩みである「入金までの長さ」を、ファクタリングは根本的に解決します。
3か月後に入金される予定の売掛金を、今すぐ現金化できる。
これだけで、資金繰りの自由度は劇的に向上します。
理由②:売掛先が大手・公共なら審査に通りやすい
建設業の売掛先は、大手ゼネコン、不動産デベロッパー、官公庁など、信用力の高い企業が多いのが特徴です。
ファクタリングの審査では売掛先の信用力が重視されるため、建設業は他業種よりも有利な立場にあります。
実際、ファクタリングの利用業種で最も多いのは建設業で、全体の約33%を占めています。
理由③:赤字でも利用可能
自社が赤字決算であっても、売掛先の信用力が高ければファクタリングは利用可能です。
銀行融資を断られた会社にとって、これは大きな救いとなります。
理由④:負債にならず財務諸表を傷つけない
ファクタリングは売掛金の「売却」であり、「借入」ではありません。
したがって、貸借対照表上の負債が増えることはなく、財務諸表を傷つけません。
今後の銀行融資や取引先との契約を控えている場合、この点は非常に重要です。
理由⑤:売掛先の倒産リスクを移転できる
ファクタリングの多くは「ノンリコース(償還請求権なし)」契約です。
これは、ファクタリング利用後に売掛先が倒産しても、利用者が補填する必要がないことを意味します。
建設業は一件あたりの取引金額が大きいため、売掛先の倒産リスクは経営を揺るがしかねません。
ファクタリングを活用すれば、このリスクをファクタリング会社に移転できるのです。
A社のその後——単なる「延命」ではなく「V字回復」へ
ファクタリングで危機を乗り越えたA社。
しかし、田中社長の本当の挑戦は、ここから始まりました。
資金繰り表の導入——二度と同じ轍を踏まない
「同じ失敗は、二度と繰り返さない」
田中社長はそう決意し、翌月から「資金繰り表」の作成を始めました。
資金繰り表とは、入金と出金のタイミングを月単位(または週単位)で可視化する管理ツールです。
「いつ、いくらの支払いがあるのか」「いつ、いくらの入金があるのか」を一覧できるため、資金ショートのリスクを事前に察知できます。
建設業の場合、特に注意すべきは「資金の谷」と呼ばれる時期です。
売上が集中する3月、9月、12月の直前は、先行投資が膨らみ、手元資金が最も薄くなります。
実際、建設業の倒産がこれらの月に集中しているのは、この「資金の谷」が原因です[1]。
A社では、資金繰り表を活用することで、危機的状況に陥る2〜3か月前には予兆を察知できるようになりました。
ファクタリングの「戦略的活用」へシフト
もう一つ、田中社長が変えたのは「ファクタリングの使い方」です。
以前は、ファクタリングを「最後の手段」と考えていました。
どうしようもなくなったときだけ、仕方なく使うもの——そういう認識でした。
しかし今は違います。
大型案件を受注したとき、先行投資のための資金を計画的にファクタリングで調達する。
銀行融資の審査を待っている間の「つなぎ資金」として活用する。
季節変動による「資金の谷」を乗り越えるために、あらかじめ現金を確保しておく。
ファクタリングは、経営を安定させるための「戦略的ツール」として位置づけを変えたのです。
その結果、A社の経営は驚くほど安定しました。
翌年度の売上は前年比120%。
利益率も改善し、銀行からの評価も向上。
新たな融資枠の獲得にも成功しました。
田中社長はこう語っています。
「あのとき、ファクタリングに出会っていなければ、うちは確実に潰れていました。でも今は、ファクタリングがあるからこそ、攻めの経営ができています」
ファクタリング会社を選ぶ際の注意点
ファクタリングは建設業にとって非常に有効な資金調達手段ですが、会社選びを間違えると大きな損失につながります。
最後に、ファクタリング会社を選ぶ際の注意点をお伝えします。
建設業に強い会社を選ぶ
ファクタリング会社には、それぞれ得意な業種があります。
建設業の場合、以下の点を確認しましょう。
まず、支払いサイトが長い債権でも対応可能かという点です。
建設業の売掛金は、他業種に比べて支払いサイトが長い傾向にあります。
一般的なファクタリング会社では「支払期日まで60日以内」などの制限を設けていることがあり、建設業の債権は断られるケースもあります。
次に、注文書ファクタリングに対応しているかという点です。
通常のファクタリングは「請求書」が対象ですが、注文書ファクタリングは「受注段階」で資金化が可能です。
工事着手前の先行投資に活用できるため、建設業にとっては非常に使い勝手の良いサービスです。
悪質業者を見分けるポイント
残念ながら、ファクタリング業界には悪質な業者も存在します[2]。
以下の点をチェックし、信頼できる会社を選んでください。
①手数料の上限が明示されているか
「手数料1%〜」といった最低料率だけを強調し、上限を明示しない会社は要注意です。
実際に契約したら20%以上の手数料を請求された、というケースもあります。
必ず、上限料率を確認しましょう。
②償還請求権なし(ノンリコース)か
「償還請求権あり」の契約は、売掛先が倒産した場合に利用者が補填義務を負います。
これは実質的に「融資」と同じであり、貸金業の登録がない会社が行っている場合は違法の可能性があります[2]。
③契約書の名義が「売買契約」か
契約書が「金銭消費貸借契約」となっている場合、それはファクタリングではなく「貸付」です。
正規のファクタリングは「債権譲渡契約」または「売買契約」として締結されます。
まとめ——資金繰りの「選択肢」を持つことが、会社を守る
ここまで、「あと3日で黒字倒産」という危機に直面したA社のストーリーを通じて、ファクタリングの仕組みと活用法をお伝えしてきました。
最後に、この記事のポイントを整理します。
- 建設業の倒産は過去10年で最多を記録。その約3割が黒字倒産
- 建設業特有の「入金サイトの長さ」「先行出費の多さ」「手形取引」が黒字倒産の原因
- ファクタリングは売掛金を即現金化できる資金調達手法
- 銀行融資との最大の違いは「スピード」と「審査対象」
- 建設業は売掛先の信用力が高いため、ファクタリングとの相性が良い
- ファクタリング会社選びでは、手数料上限・ノンリコース契約・契約形態を確認すること
黒字倒産は、「知らなかった」「準備していなかった」ことで起きます。
逆にいえば、正しい知識を持ち、適切な準備をしておけば、避けられるリスクでもあるのです。
銀行融資だけに頼る時代は終わりました。
ファクタリング、手形割引、ABL(動産・債権担保融資)——。
資金調達の選択肢は、昔よりも格段に増えています。
大切なのは、危機に陥る前に、複数の選択肢を持っておくことです。
A社の田中社長は、あの9月末の経験を「会社の転機だった」と振り返ります。
「苦しい経験でしたが、おかげで資金繰りの大切さを骨身に染みて理解できました。今では、どんな状況でも乗り越えられる自信があります」
あなたの会社も、いつ資金繰りの危機に直面するか分かりません。
「うちは大丈夫」と思っている会社ほど、備えが甘くなりがちです。
本記事が、あなたの会社を守る一助となれば幸いです。